醒めない夢を見ていた

ただ、いとしいとつたえるだけ。

朝焼けに世界を見つけた日のはなし -なかまるくん37回目の誕生日によせて-

夏が朝焼けと刹那を永遠にして消えゆく今日、わたしは手紙を書く。わたしが世界でいちばんだいすきなひとが、またひとつ、遠くなるこの日に。一等星のように強く瞬いて笑うこの日に。

いつかかならず死にゆく人生のなかで、きみがすきだ、と言葉に出来るのは、あと何回だろう。たべるのも、ねむるのも忘れて、飽きる程"すき"の定義を考えて、結局零すことばが、何万回と口にした『すきだ』になってしまう。毎日訪れる朝がこんなにも胸を焦がすのに、毎日訪れる夜にあんなに胸を時めかせるのに、幾つもの日々を越えて生活を紡いでゆくたび、わたしの中に堆積し、膨張して、爪先まで侵食して、わたしを生かす感情。恋とも愛とも憧憬とも名のつかないそれは、わたしのすべて。心地よい感覚のなかに、揺蕩うだけだ。きっと。

身体中が、心すべてが、甘さや苦さや刹那に捕らわれて、混沌としたきもちのままに、熱情が走る瞬間がある。どうしようも無く泣きたくなって、きちんと立っていよう、と決意してきみを見ても、高鳴る心臓のかたちがはっきりと解って、細胞が、血液が波打って沸騰する。わたしはきみがすきだ、というこの紛れも無い真実は、わたしの心臓だけが知っている。この想いは世界の誰にも秘密。頭の天辺から爪先まで、全身が熱に浮かされている証拠だ。

 

生きるうえでのマイルールがとっても細かくて、偏屈で、人見知りで、怖いところが苦手で。誰よりも痛みを知っている。理性的で冷静で、感情を表に出すことはあまり無いけれど、隣にいるひとの心の奥底にねむるちいさな棘に、そっと気づいてやさしく受け容れる。目尻に刻まれる笑い皺が深くなるたび、笑い声が高くなるたび、世界の色が、世界のすべてが、夢みたいにおもえる。いつもはウザったくおもう夕立も、眼鏡を外して見てみる外の世界も、部屋の隣のタワーの丸い灯りも、けたたましく鳴るパトカーのサイレンも、真昼の雑踏のなかの生きる音も、この世のすべてが素敵に聞こえてもうだめになってしまう。わたしときみがこの世のどこかで交差している証拠が視界に飛び込んでくる。わたしは、たしかに生きているんだな、と。自分を律してかたちづくっているなにかが崩れた瞬間、ひとは世界でいちばんうつくしくなる。ひととしての理性を失う瞬間、手をのばしたらその空間が世界のすべてだ。きみが大丈夫だと言えば、すべてが上手くいく。そう信じて生きるようにしたら、なんだか心がとてもかるくなった。苦しさは時々あるから、幸せを幸せとかんじられる。これは嘘じゃなくって。きみのすきなことば、楽観視。なんて素敵なことばだろうか。「自分が優しいとは思わない」といつかのインタビューできみは言ったけれど、その繊細で鮮やかで大胆で揺るぎない生き方に、大きな背中に背負ってきた経験の重さに、わたしは痛い程優しさを感じて泣いてしまう。

 

隣でいっしょにいてくれるひとによって、立ち位置が変わるところがすきだ。グループのお兄ちゃんな雰囲気も、おじいちゃん扱いされるところも。家事ヤロウのゆる〜い空気も、ぜんぶ許してくれてるあの気楽なかんじも、シューイチの弟みたくなんでもチャレンジさせてくれて、『すごいねえ、イイじゃん!』と言ってくれるあったかいファミリー感も。ドラマやトーク番組に呼ばれたときの、ちょっとよそいきでそわそわしてるおとこのこなかんじも。いつもとちょっとだけ違う表情で佇む姿も。どんな場所で笑う素顔のきみも、ちょっとめんどくさそうにしてるきみも、メンバーとじゃれあう楽しげなきみも、緻密で鋭いダンスを踊るきみから聞こえる、擦り切れて靡く衣装の布の音も、東京ドームで大手振って『さよなら!』って叫んででっかく光ってるきみも、ぜんぶぜんぶ、風の音をおぼえておくみたいに、ただ、忘れないでいたい。僕の話していることはすべて嘘です、ときみが言うから、もしかしたら今この瞬間も嘘かもしれない、とかんがえるけれど、それでも、わたしはきみを、すきだと言いたい。きみの零す嘘に溺れて、にこにこ笑っていられるのなら、それを友人たちと共有して、楽しいねと、楽しかったねと言いあえるなら、やさしい嘘なんて上等だよ、とおもう。でも、わたしは、細っこいけれど意外と大きな背中も、丸い猫背も、彫刻刀で掘ったみたく切れ長な瞳も、うつくしい鼻筋も、ハート型の唇も、握り拳くらいにめちゃくちゃ小さい顔も、体幹も、蹴ったら折れてしまいそうなくらい細い足首も、言葉も。曲に時たま滲む、こわいくらいの情念も、そのほか諸々すべて、世界そのものとして存在していることを知っている。何百年か経ったあと、わたしもきみも、まわりのぜんぶも無くなった世界が変わらずにうつくしいとき、あなたのすべてがなんにも喪われていなかったことを、わたしは次の世で知るのだろうな、とおもう。

 

2020年9月4日。また、追いかけっこの季節が来た。わたしがひとつ歳を重ねて、身長が伸びて、季節の匂いが変わっても。きみとの距離は少し近づいて、ゆっくり影が伸びるくらいの速度で、遠くなってゆく。見ている景色は、流れ星よりも、絵の具を溶かした空よりも、空に透かすときらきら光る飴玉よりも鮮やかに、一瞬だけ強く強く瞬いて、またすぐピントが合わなくなって。"わたしとあなたの永遠"として固定することは出来なくなってしまう。わたしがきみへ叫んだ"すき"は1秒後には過去になり、ゆっくり弧を描いて冷たい刹那へ消える。さようなら。過ぎていく1秒が、死んでいく人生が、美しく刻まれる夜、きみはひとつ、歳を重ねる。

 

ひととひととが交差してかき混ぜられる東京の交差点の真ん中、わたしは今日、きみに贈るケーキを買いにゆく。ほら、またひとつ、鮮やかな色が。

 

 

 

 

刹那が魅せる時間の走馬灯の中で、魔法の呪文を唱えて眠る。

 

 

 

 

 

 

 

なかまるくん、37歳のお誕生日、おめでとうございます。これからもどうか、きみのままで。

 

 

 

おやすみ。

 

 

 

 

 

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