醒めない夢を見ていた

ただ、いとしいとつたえるだけ。

世界でいちばんうつくしい失恋をした日

いま、どんな気持ちですか?とひとにたずねられたら、わたしはなんと答えるだろう。

うれしい?さみしい?おいてかないで?きっとぜんぶ正解なんだとおもう。

報告メールが届いた16:05からずっと、ずっと、世界の色が色濃く見える。つめたく吹きすさぶ風も、帰りの電車のアナウンスも、帰り道のスーパーも、昨日となんら変わらない同じ道なのに、今日はまるでダンスフロアみたいだった。

メールを受け取ってURLをひらくまで、正直ずっと怖かった。ひとり駅のホームで帰りの電車を待ちつつ受け止めるには、あまりに重いことなんだろうな、と直感で分かった。何故かって、昨今のあれこれを見てもらえればわかるのだけど。けれど、でもこれは、わたしがちゃんと受け止めなきゃと思った。Xのタイムラインでも、ネットニュースでもなく、自分の目で。いままで彼から、彼らから受け取ってきたどんなお知らせも、ちゃんと自分で確認して、ここまでやってきたんだから。

メールをひらく。文章を読む。全身の血液が一瞬で冷えて、すぐ粟立った。

 

どうしよう、この日がついに来た、とおもった。

 

2024年1月16日。世界でいちばん大切でだいすきなひとが、結婚した。

 

よく分からぬまま電車に乗って、コメントを何度も何度も読んだ。その1秒後、スマートフォンに【号外】の文字が踊った。どうやら夢ではないらしい。ああ、結婚したんだ、そうか。うん。結婚したんだ。堪らなくうれしくて、窓の外の景色を見た。いつもとおなじスピードで車窓の景色は移ろっていく。早く最寄りに着いて欲しい。今すぐ走りたい。うれしくて、うれしくて、うれしくて、大声で叫びたかった。

そっか。最近やたらかっこよかったのは、YouTubeやるからだけじゃなかったんだ。もっとちゃんと、真っ直ぐに高く飛ぶ準備をしていたんだ。一生いっしょにいるって決めたひとのそばで、それが嘘にならないように、守る仲間と、居場所をもっともっと広げて、いろんな景色を見られるように世界を作ってたんだ。やっぱりなかまるくんは、わたしより何段も大人だった。

うれしいも、たのしいも、かなしいも、さみしいも、どうして?も、アイドル生活25年の中で、船酔いでおなかいっぱいなほどの大海原で船をすすめてきたきみが、つらくてつらくて、それを隠して死にそうな顔でグループを守っていたきみが、いま、家庭を持ってしあわせになろうとしている。矢面に立ってコメントして、やっぱりつらくて顔がゆがんでしまったきみが、今日はただ、しあわせなのだ。こんなの、だれが止められようというのか。

 

わたしは常におもってきた。きみが恋をして、まもりたいとおもってこころに灯を灯す瞬間をずっとまっていたい、と。今日それが叶った。おもうより数百倍はやく、そしてあっけなく。でもまあ、運命なんてそんなものなのかもしれないなとおもう。きみの心のほしの真ん中に、火を焚べにくるひとがいること。もうぜんぶぜんぶ、大丈夫だということ。誰かの夫になっても、守るひとがいても、アイドルで、コメンテーターでYouTuberで、漫画家で、ゲーマーでいてくれること。今日からそこに、"既婚者"が増えること。大事にしたいとおもうものが増えること。大切なものが増えること。『長生きしよう』の理由が増えること。丁寧で穏やかに暮らす日々が約束されていること。ぜんぶ、わたしはこんなにもうれしいよ。だってそんなの、幾つあってもいいですからね。

今日、すきなひとのためだけに、これからもうつくしくいようとおもった。お父さん、お母さん、わたしのながいながい片想いは終わりました。失恋しました。でも、世界でいちばんうつくしい失恋だと胸を張って言える日が来ました。この日をずっと待っていました。今日はお祝いです。

そんなおもいを抱えながら家までの道を歩いていた。夕焼けと夜がまざる。なかまるくんがいちばんすきなマジックアワーの時間だった。マンションの近くのベンチ、ただずっと座っていた。今日を迎えるまで、"もし自担が結婚したら"の想定で聴きたい曲も、かきたい言葉も、たくさんあったはずだった。けれどぜんぶ忘れてしまっていた。熱に後押しされて、そんなもの溶けてしまった。そのかわり、なかまるくんのすきなところを枯れるまでおもいだしていた。顔もうたもイラストもユーモアもチャラいところもすべてすきだ。7歳の頃に出逢ってからずっと。けどわたしは、すきなものや信頼しているひとへ向ける声の熱が、いっとうすきだとおもった。あまく燃やすみたいなきみの声が。そんなことを考えているあいだ、ずっと微笑んでいる自分に気がついた。悪くないなとおもえた。

明日からも、きみはアイドルでいるんだ、とおもった。一生を約束したひとの待つ未来を守りながら、あたらしい明日へ駆けていく。それだけでじゅうぶんだ。

やさしくいる、ということは、傷ついてもいいと契約することだ。雨に打たれるだけで傷だらけになるような心になって、ちいさな傷をからだにつくって、それを乱反射させながら、きみは誰よりつよくあった。わたしは、そんなきみがすきだ。今日も、明日も、明後日も。

 

ねえ、なかまるくん。しちゃいましたねえ、結婚。おめでとう、ほんとうに、おめでとう。かっこいいね、大人だね。15歳だった少年のなかまるくんに今日の姿見せたら、きっとびっくりしちゃうね。ずっとずっと、なかまるくんはわたしにとって憧れの大人です。かっこいい大人は、人生の節目まで抜かりないのか。ずるいなやっぱり。なんてことないって顔で、明日からもまた逢おう。新しい魅力を鎧に変えたなかまるくんに、今年もすこしでも多く逢えますように。きみは手紙で1.3倍の活動量でがんばりますなんて言うけど、今日からひとりじゃないとみんなに言えるけど、無理だけは絶対しないでね。いまでも多分中丸雄一は5人くらいいるのに、ここから1.3倍頑張ったら倒れてしまうから。ほどほどにもたれ掛かりながら、遊びながら生きてください。あ、運命の日の熱の味、やっぱり無花果の味だったなあ。

 

中丸雄一さん。ご結婚、おめでとうございます。これからも、素敵な人生を。心からのおめでとうを添えて。

2024.01.16